東京地方裁判所 昭和26年(ワ)5431号 判決
原告 小林勝重
被告 株式会社常盤商会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は被告は原告に対して東京都品川区東大崎五丁目百三十番の五宅地九十二坪五合七勺の内別紙図面<省略>(イ)(ロ)(ヘ)(ホ)(イ)を結ぶ範囲の土地三十九坪三合九勺を同地上にある家屋番号同町百三十番の十九木造トタン葺平家建物置一棟建坪一坪を収去して明渡せ。訴訟費用は被告の負担とする。との判決並に仮執行の宣言を求め、請求原因として、原告は大正十年頃から鳥山同族合名会社から同会社所有の品川区東大崎五丁目百三十番地の一宅地四百七十一坪六合四勺の内別紙図面(イ)(ロ)(ヘ)(ハ)(ニ)(ホ)(イ)を結ぶ土地四十三坪一合五勺を普通建物所有の目的で賃料一箇月金十四円五十八銭、期間の定なく賃借し、地上に木造トタン葺二階建一棟建坪三十坪七合五勺二階二十坪二合五勺を所有していたところ、昭和二十年三月強制疎開のため除却せられ借地権は消滅した。右土地は昭和二十五年十二月二十八日分筆せられて同丁目百三十番の五宅地九十二坪五合七勺と云つて前記(イ)(ロ)(ヘ)(ホ)(イ)を結ぶ土地はその一部となつた。
終戦後原告は大正時代から顧客の多い右土地に復帰を念願し前記会社に交渉したが容易に解決しないので、昭和二十三年九月十一日附の書面で右賃借していた土地の賃借申出をなし、翌十二日到達した。これに対し同会社は右土地を既に阪本英雄、久保親愛に賃貸したとの理由で拒絶したがこの拒絶は正当の理由がないから、法定期間満了と共に右土地に借地権を取得した。然るに同会社はこれを争い借地条件も調わないので同会社を相手として東京地方裁判所に借地権の確認並に条件の確定を求める旨の申立をなし、同庁昭和二十四年(シ)第八六号訴訟事件において審理の結果昭和二十六年二月十九日同裁判所において原告が右(イ)(ロ)(ヘ)(ホ)(イ)の宅地三十九坪三合九勺について普通建物所有の目的で、昭和二十三年十月四日から賃料一箇月一坪につき十二円の借地条件による賃借権を有する旨の裁判をなし、同年三月二日裁判書の送達がなされたが即時抗告の申立がなかつたので、同月十六日の経過と共に確定するに至つた。
そこで原告は同年五月右土地に家屋を建築するため整地をしようとしたところ、被告はこれより先昭和二十五年十二月二十八日前記会社から右百三十番の五の土地を譲受けてその所有権を取得しその旨の登記を経由し、石炭置場として使用していることを知つた。然しながら、
(一) 右確定裁判は民事訴訟法第二百一条の規定によつて前記会社の特定承継人である被告に対して既判力を有する筋合であるから、原告は被告に対して右裁判によつて確定せられた借地権を対抗できるものといわなければならない。その理由は次のとおりである。罹災都市借地借家臨時処理法による賃借権設定並に条件確定手続は非訟事件手続法に準拠しているけれどもそれは簡易迅速に解決することを必要とした特別の理由に基くものであつて、争訟の実質は訴訟事件であること明白であるから右事件の裁判である決定は、訴訟法上賃借権確認の判決と同一の性質を有するものと解すべきである。してみると民事訴訟法第二百一条のいわゆる口頭弁論の終結の時に相当する時は右非訟事件手続における一切の証拠資料の提出せられた最後の時であつて、審問手続の終了の日に当るものといわなければならない。而して鑑定委員会の意見を求める手続は単に借地条件について意見を徴するに止まり具体的な争点に関する証拠資料の提出ではないから口頭弁論終結の時を決する基準となり得るものではない。従つて右非訟事件手続における口頭弁論終結の時に相当する日は実質上審問手続を終了した昭和二十五年九月六日であつて、その後同年十二月二十八日本件土地の所有権と占有権を取得した被告は特定承継人として前示決定の既判力の拘束を受けるものであるから、同日以前の事由に基いて右決定の効力を争うことは許されない筋合である。
(二) 仮に右の主張が理由ないとすれば、予備的請求原因として次の通り主張する。
前記の通り原告は疎開跡地の借地権者であつて、賃借権設定の申入をしたものであるが、土地所有者である鳥山同族合名会社は、これを拒絶するについて正当の事由を有するものではないから、前記の通り原告のために借地権が設定せられたものであつて、この権利は処理法第二条の規定の精神により第三者たる地主の被告に対抗できるものと解すべきである。従つて原告が被告に対して賃借権を有することに変りはない。而して被告は本件土地に対する昭和二十六年五月十八日なされた仮処分の執行後同年六月五日不法にも請求趣旨に記載の建物を建築所有したので、この建物を収去して土地の明渡を求めるため本訴に及んだと述べ、被告の主張事実に対して、原告の借地申出当時阪本が本件土地とその南西方の隣地を鳥山同族合名会社から賃借してその隣地に建物を建築所有し、これに居住して本件土地の内久保親愛居住建物の北側の部分を道路に出る通路として使用していたことは認めるけれども、その余の部分は空地であつて、これをたとい阪本が占有していても処理法第二条にいわゆる使用には当らないから通路の部分を除いてもなお三十五坪余については借地申出の効力は妨げられない。その余の事実は認めないと述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は主文第一項と同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実中、原告主張の土地についてその主張の通りの処理法による裁判がなされ確定するに至つたこと、被告が右土地を鳥山同族合名会社から買受けて所有権の取得登記を経由したこと及び分筆登記のなされたことは認めるけれども、その余の事実は認めない。
(一) 本件では訴訟物が特定せられていない。
被告は品川区東大崎五丁目百三十番の五宅地九十二坪五合七勺の所有者であるけれども原告は右土地の内如何なる部分の明渡を求めるものであるか、その範囲を特定していないから本訴は訴訟物の特定を欠く不適法のものである。蓋し原告はその範囲を示すのに東南側隣地の久保親愛居住家屋を基準とし、その建物の北側の線に(ホ)(ヘ)点を置いているが、右建物にして火災その他の事由で焼失又は滅失するときは一朝にして(ホ)(ヘ)点は不明となること言をまたないところであるから、このような不確実且つ変転性を有する物を基準として表示された本件訴訟物は特定せられたものということはできない。
(二) 原告主張の非訟事件における原決定は被告にはその効力がない。被告は右事件の裁判に拘束せらるべき当事者の承継人ではない。元来非訟事件手続においては審問手続によつて決定の形式により裁判がなされるものであつて、口頭弁論によつて裁判がなされるものではない。従つて口頭弁論に関する民事訴訟法の規定又はこれを前提とする同法の規定はその適用のないこと勿論である。
従つて口頭弁論の終結なる手続上の段階は非訟事件にあり得る余地はないのであるから、審問の終結なる時機なく且つ性質上その時機を考えることは許されない。而して原決定が昭和二十六年二月十九日附で作成せられ、同年三月二日当事者に送達せられて始めて告知せられ、その効力を発生したものであるが、被告が係争土地の所有権の取得登記を経由したのはその以前である昭和二十五年十二月二十八日であること原告の主張するとおりである。従つてその効力発生当時所有者でない者に対してなされた原決定が被告に対して効力を有する理由がないから、原告の(一)の主張は失当である。なお被告は同年末頃百三十番の五の宅地の借地権を地主の承諾を得て阪本から譲り受け且つ同人から地上建物を譲り受けたもので、その後前記の通り土地の所有者となつたのである。
(三) 仮に原告が処理法第九条によつて準用せられる第二条の借地権設定の申入をなし得る地位を有し且つその主張の通りの申出をなしたとしても、
(イ) 右申出の当時阪本英雄が既にその土地を権原によつて建物所有の目的で使用していたのであるから、その申出はその効力を生じ得ない。
原告主張の土地を含む百三十番の五宅地九十二坪五合七勺の土地は昭和二十年秋頃より阪本英雄が地主の鳥山同族合名会社から建物所有の目的で賃借し、昭和二十一年初頃その地上の南西部(歩道から見て本件土地の奥の方向)に現存の建物を建築し爾来全土地をその敷地として使用していたのであるから、その後昭和二十三年九月十二日到達の書面でなした本件申出は処理法第二条第一項但書によつて無効である。
もつとも原告主張の土地の範囲内には建物は存在しないけれども、建物所有の目的で土地を使用するとは、建築物の土台下のみをいうものでないこと勿論であつて、その建物の利用のために必要な周囲の土地、庭先、洗濯物の干場、家庭菜園用地玄関より道路に至るまでの通路、物置の敷地その他建物使用のために使用者が必要欠くことのできないものとして使用目的を定めた土地をも含むものと解すべきである。
而して阪本が前記九十二坪余の土地を賃借したのは表道路に面する部分即ち原告主張の土地に店舗を建築するためであつてその実行として先ず居宅をその奥に建築しこれに居住し、本件土地に店舗を設け営業を遂行する意図を有していたのであるから居宅の建築は店舗の建築と密接不可分の関係にあつたもので前記計画の一過程に過ぎなかつたのである。
即ち居宅の建築は店舗の建築と一体をなしているのであるから店舗の建築予定地である本件土地は既に居宅が建築せられた後においては居宅の敷地として使用していたものというべきである。従つて本件土地が空地であるとの一事をもつて未使用というべきものではない。そればかりではない原告主張の土地は右居宅から道路に至る通路としても使用していたのであるから原告の主張が失当であること明白である。
(ロ) 本件土地は原告に必要でない。
原告は申出当時から既に現住地に住居と工場として木造瓦葺平家八坪及び二階建延坪三十八坪を所有して盛に営業を遂行していたのであるから本件土地に復帰する必要はない。仮に本件土地を使用できるとすれば、その範囲は三十数坪であるから原告の営業全部の移転の可能性なく単に小売店舗を設置する外はない。然も本件土地における原告の営業の一部門としての綿製品蒲団の小売は周囲の状況に照し到底不適当の場所であること疑を容れない、従つて土地所有者が右申出を拒絶するについて正当の理由を有していたのである。
何れにしても原告の請求は失当であると述べた。<立証省略>
三、理 由
被告代理人は本件は訴訟物の特定性を欠き不適法である旨主張するので、先ずこの点を判断する。
原告が本件において明渡を求める土地の範囲は別紙図面に記載の通り(イ)(ロ)(ヘ)(ホ)(イ)を結ぶ範囲であつて、品川区東大崎五丁目百三十番の五宅地九十二坪五合七勺の土地の東南側道路に面して存在する久保親愛居住建物の北側の角を基準とし、その建物の北西側の土台の線及び歩道に囲まれた土地を指すものであること並に右(ホ)点は前記建物の北側のコンクリート土台の北端の線をコンクリート張の歩道に向つて八寸延長した地点であつて、右コンクリートの土台が堅固で耐久性のあることは検証の結果に徴し明白である。
然らば(ホ)(ヘ)の点は容易に移動させることのできない地点であるからこれを基準として測定せられた本件土地は特定性を有するものと解すべきところ、被告代理人は建物は焼失その他滅失する危険があるので、このような変転性を有する物を基準として表示せられた土地の範囲は特定せられないと主張するけれども建物のコンクリートの土台は建物が通常の火災等によつて焼失又は滅失しても容易にその跟跡を絶つものでないことは今次空襲による罹災跡地の状況に鑑み多言を要しないであろう。若しそれ地球の表面が広範囲にわたり甚しい変化を生ずるような稀有の大地震その他異常の天災又は事故を想定すれば右のような土台をもつてする特定性はその否定を免れないであろうけれども、訴訟法はこのような未曾有の大災害に際会してもなおその基準の跡を判別できるような地点の特定を要求しているものと考えることはできない。
従つてこの点に関する被告の主張は理由がない。
よつて原告の(一)の主張を判断する。
原告が別紙図面(イ)(ロ)(ヘ)(ハ)(ニ)(ホ)(イ)を結ぶ土地四十三坪一合五勺について罹災都市借地借家臨時処理法第九条の疎開跡地の借地権者なりとして土地所有者である鳥山同族合名会社に、昭和二十三年九月十二日なした借地権設定の申出の効力発生を理由として、東京地方裁判所に右会社を相手方とし、借地権の確認並に条件の確定を求める旨の申立をなし、同庁昭和二十四年(シ)第八六号非訟事件において審理の結果、同裁判所において昭和二十六年二月十九日附の決定により原告主張通りの確定裁判がなされるに至つたこと並に被告がこれより先昭和二十五年十二月二十八日品川区東大崎五丁目百三十番の五宅地九十二坪五合七勺(同日百三十番地の一宅地四百七十一坪六合四勺より分筆せられた)を譲受けて所有権を取得し、同時にその旨の登記を経由したことは当事者間に争のないところであつて、原告本人の供述と検証の結果によれば、右非訟事件の決定において原告が借地権を有すると定められた土地の範囲は別紙図面の通り(イ)(ロ)(ヘ)(ホ)(イ)を結ぶ三十九坪三合九勺で、右百三十番の五宅地九十二坪五合七勺の内に包含せられるものであることを認めることができる。而して右非訟事件においては借地権設定の申出によつて借地権を得たかどうかの点が争の対象となつたのであるから、この紛争は原告主張の通り民事訴訟事件であることを否定できないであろう。
従つて右の紛争についてなされた前記確定裁判は権利関係の存否について確認的の判断をなしたものに外ならないから、この裁判が裁判上の和解と同一の効力を有することは処理法第二十五条、第十五条の規定に則り論をまたないところで、その効力とは確定判決と同様の既判力を有するものと解すべきであるけれども、その効力発生時期については特別の規定の存しない限り前記決定の効力発生の時に恰も和解契約が締結せられたと同様に解するの外はない。従つてその承継人となるかどうかの決定基準たる時は決定の効力発生の時であつて、その以前に遡ることは許されないものというべきである。蓋し非訟事件における審理は審問手続であつて、口頭弁論によらないものであるから、口頭弁論に関する民事訴訟法の規定は、非訟事件手続においては、たとい審理の内容が民事訴訟事件であつても、当然にはその適用ないものと解すべく且つ特別の規定の存しない限りその準用もないものといわざるを得ない。
而して民事訴訟法第二百一条は確定判決の承継人に対する効力について、口頭弁論終結の時を基準となし判決の効力発生の時たる言渡の時より遡るのであるがこの点について準用その他の特別規定の存しない以上非訟事件手続の性質に照し弁論終結なる観念と手続上の段階を容れる余地は存しない。従つてたとい原告主張の通り実質上の証拠資料の提出が昭和二十五年九月六日に終了したとしても、その日を審問手続即口頭弁論終結の日なりとなし、その後非訟事件の裁判の効力発生前に本件土地の所有権と占有権を取得した被告に対して右裁判の効力が及ぶ旨の原告代理人の見解にはとても左袒することができない。
なお原告が引用した昭和二十五年九月六日の前記非訟事件の期日は処理法第十五条に基き鑑定委員会の意見を聴くために鑑定を委嘱した日であつて、同日中に意見の聴取を終了していないことは同事件記録に徴し明かであるから同日非訟事件の手続が終了したものと解すべき根拠はない。
従つて原告の(一)の主張は理由がない。
よつて次に原告の(二)の主張を判断する。
成立に争のない甲第五号証(小林勝重に対する審問調書)の記載と原告本人の供述並に前段認定事実を綜合すれば、原告は大正十二年頃から別紙図面(イ)(ロ)(ヘ)(ハ)(ニ)(ホ)(イ)を結ぶ土地四十三坪余を普通建物所有の目的で地主の鳥山同族合名会社から賃借し地上に木造トタン葺二階建延坪五十一坪の家屋を所有していたところ、昭和二十年三月頃強制疎開のため除却せられ借地権は消滅したこと、原告は右土地に復帰を希望し、昭和二十三年九月十二日頃右地主に対して従前の賃借土地の賃借の申出をしたところその頃地主において他に賃貸したと称してこれを拒絶したことを認めることができる。
被告は原告のなした右申出は当時既にその土地を地主から賃借した阪本英雄において建物所有の目的で使用していたから申出はその効力ないと抗弁するので、この点を考察するに、その当時本件土地が空地であつたけれども阪本は地主から本件土地とその南西方の隣地を賃借して、その隣地に建物を建築所有しこれに居住して、本件土地の内久保親愛居住の家屋の北側の部分を右家屋から道路に出る通路として使用していたことは当事者間に争のないところである。而してこの事実と成立に争のない甲第六号証(阪本英雄に対する審問調書)の記載と証人阪本英雄の証言並に検証の結果を綜合すれば板硝子販売業の阪本は昭和二十一年夏頃本件土地及びその南西方の隣地(道路より奥の方)約百坪を地主の前記合名会社より建物所有の目的で期間の定なく賃借し、昭和二十二年初頃奥の方にある隣地に十五坪余の居宅を建築してこれに居住したが、その前面の道路に面する本件土地を含む部分には右商品を収める倉庫とこれを販売するための店舗を建築する予定のところ、道路改正の噂を聞きその実施計画の確定をまつてこれを建築することと定めていたので、原告の借地申出当時には奥の方に住宅を建築していたけれども、道路に面する方の建築はこれを見合せていた事実を認めることができる。
右事実によれば、本件土地は賃借権設定の申出当時建物の建築予定地として空地となつていたものであるので、その建築の実行に著手した形跡の認められない本件においては、その建物所有の目的で土地を使用しているものと認める余地はないけれども、前記既存建物所有の目的でこれを使用する必要性即ち建物と土地との特別関連性の有無の観点から、処理法第二条第一項但書にいわゆる使用に当るかどうかの点を更に考察するの要がある。
元来同法にいう土地の使用とは必ずしも建築物に近接した少範囲の土地に限るべき物理的の限界を置く理由はないと共にこれと反対に単なる占有をもつて足るというも当らないのであつて、結局主観的には(心素)建物所有の目的で土地を使用する意思と客観的には(体素)建物所有の目的で土地使用の必要と意思が是認せらるべき従つてこれを使用しているものと認めるが社会通念上相当とすべき具体的状態の存在を兼備する場合と解するのが至当である。
本件についてこれを見るに、板硝子販売業の阪本が本件土地を空地として残していたのは前記の通り表道路の改正が実施せられるかどうかを、まつていたためであつて、道路に面して右物品販売の店舗とこれを収める倉庫の建築を必要としそのためにこれを使用する意思を有し、一連の計画の実行として先ず住宅を奥の部分に建築して土地の使用を始めたものであるから阪本は本件土地につき右居宅のため必要欠くことのできない密接不可分の関係によつてこれを使用する意思を有し(心素)且つその一部は道路に至る唯一の通路として使用せられていたものであつて、その坪数が道路に面する三十数坪であること及びこの土地が既存建物と接着している点等諸般の状況に鑑み、本件土地は前記居宅の所有を目的として使用せらるべき必要と意思の存在が是認せられ従つてこれを使用しているものと解するのが社会通念に照し妥当であると判断すべき客観的状態(体素)を備えているものというのが相当である。
右認定はその後二年有余を経過した昭和二十五年末頃阪本が右建物と借地権を被告に譲渡したこと(この事実は証人阪本の証言で認められる)によつて左右せられず、他に右認定を覆えすべき証拠はない。
然らば原告の賃借申出はその効力を生じ得ないものというべきであるので、原告の請求は、その余の点の判断を省略し失当として棄却を免れない。
よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 西川美数)